一石を投じた？

『神々の指紋』は、現在の専門分化が進みタコ壷化した学問に対して、一石を投じたことだけは間違いない？

本当の学問上の問題点がわかる？

たしかに『神々の指紋』には、クフ王のピラミッドから王の遺体が見つかっていない点など学問上の問題点も含まれています。

しかし、それだからこそ申しますが、「嘘」をついてはいけないのです。

これのせいでオシレイオンの年代など「まったく学問上疑問のない年代」についても、問題があるように描かれてしまいます。そして、重要なことですが、一般の読者には、前者の本当の問題点と後者のでっち上げられたものとの区別はつきません。

したがって、この本を読んでもエジプト学で実際に問題になっていることが何なのか全然わからないでしょう。

繰り返しになりますが、「通説」を知らずして「通説」を批判することはできません。ただし、「批判したつもりになる」ことはできます。

知らず知らずに取り憑かれる

私が一番危惧しているのは、この本について全体としては否定的な立場を取りながらも「エジプトに関してはもう少し定説を見直す必要があるのではないか？」とか「『神々の指紋』は地殻移動説など自然科学の側面からは否定できるが、考古学・文献学についてはその指摘は正当だろう。」というように、この本を「部分的に」認めてしまう人たちです。また「どっちもどっち論」に立ってしまっている読者も少なくないと思われます。

そうした人たちから「憑き物を落す」には、やはり一つ一つ具体的に指摘していくより方法はないと思います；執念深いとかねちこいとか言われようとも(^^;)。

具体性なく反論しようとするのは、ろくに読んでいない人たち（実は上述の「部分的に認めている人」も入る可能性がある）のやり方ですが、こうすると往々にして「わけのわからない文明論」に陥ってしまいます。「物質万能主義を信じる者＝考古学者」とかトンデモない方向に議論が発散してしまうのです。実は、こうした抽象論に入ることこそ疑似科学者の思う壷なのだと理解しておいてください。「知ったかぶりは危険」というのは疑似科学に対する場合も有効です。

改めて読む際の注意

• 前にも述べましたが、研究者の言葉が引用されて、それが批判されている場合は、「引用の前後に重大な省略があるに違いない」と考えましょう。
• 学説史の流れに注意しましょう。ハンコックがどう言おうとも古い学説（19世紀のものが多い）が否定されるときは、それなりに根拠がある、と考えておきましょう。また、このような古い時代には、放射性炭素による年代決定などは存在しなかったことも頭に入れておきましょう。
• 具体性のない記述は信用しないようにしましょう。「275人の地質学者」とか「数学者や天文学者から全面的に支持されている」（『神々の指紋』下巻p.106）のような匿名の表現、すなわち具体的な研究者の名前とその所属が記されていないもの、は信用する必要ありません。なお、名前が挙がっていたからといって正しいとは限らないのは言うまでもありません（ポスナンスキー博士がその例）。しかし、ともかく匿名の表現に説得力を感じてはいけません。
• 論理の飛躍に注意。これは気をつけていれば知識がなくてもわかります。簡単に言えば、「わからない、まだ解明されていない」という表現にはいろいろなレベルがある、ということです。「通説」と「超古代」の二者択一を迫っている文章では、他に可能性はないか、良く考えてみましょう。「詳しい年代は特定できないが、だいたいこのあたり」という説は考慮されているでしょうか？
• 騙されても仕方ないと思いましょう。『神々の指紋』に関しては、こう思うことはとても大切です。今までのいくつかの注意だけではとてもハンコックの狡猾な手口全てをカバーできません。相手が一枚上手なのです。